千実 山藍摺【愛知県 関谷醸造】

【日本酒レビュー】火災からの復興へ。愛知・水谷酒造の魂を関谷醸造が繋ぐ「千実(ちさね) 山藍摺」

今回は、単なる「美味しいお酒」ではありません。愛知県愛西市の水谷酒造と、同県設楽町の関谷醸造がタッグを組んで生まれた、奇跡の復興酒**「千実(ちさね) 山藍摺(やまあいずり)」**をご紹介します。


2024年5月、創業から続く酒蔵が火災で全焼するという悲劇に見舞われた水谷酒造。


しかし、彼らは諦めませんでした。再建を目指すクラウドファンディングと、手を差し伸べた同業の仲間たち。この一本には、そんな熱いドラマと希望が詰まっています。

テイスティングノート

味わい:再起を誓う、一点の曇りもない透明感
このお酒の背景を知ってから飲むと、その味わいに胸が熱くなります。
* ファーストインパクト: 雑味が一切ない、澄んだ口当たり。それはまるで、ゼロからの再スタートを象徴するような清らかさです。
* フレーバー: 派手さはありませんが、奥の方から**「微かなメロン感」**が上品に顔を出します。関谷醸造の技術と、水谷酒造の原料が見事に調和しています。
* 余韻: 最後は苦味の余韻が全体をキュッと引き締め、**「サッパリスッキリ」**とした後味を残します。
悲しみを乗り越え、前を向く強さを感じるような、芯のある食中酒です。

スペック詳細

今回頂いたボトルのデータはこちらです。
銘柄名:千実 山藍摺(ちさね やまあいずり)
販売元:水谷酒造(愛知県愛西市)
醸造元:関谷醸造(愛知県設楽町)※委託醸造
原料米:愛知県飛島村産 吟香(ぎんが) 100%
生産者:有限会社 アグリサポート 立松 豊大
精米歩合:60%
アルコール分:16度
原材料:米(国産)、米こうじ(国産)

このお酒の「ここ」が凄い!深掘り解説

ラベルの裏にある、涙なしには語れないストーリーを解説します。
1. 2024年5月の悲劇と、クラウドファンディング
水谷酒造は、江戸時代末期から続く愛知県愛西市の老舗蔵です。
しかし2024年5月、火災により酒蔵が全焼。建物や設備だけでなく、200年にわたる酒造りの記録までもが失われました。
廃業もよぎる絶望の中、若き醸造家・後藤実和氏(銘柄「千実」の由来とも言われます)を中心に**「もう一度、日本酒を醸したい」**と立ち上がり、再建のためのクラウドファンディングを開始。多くの支援が集まり、復活への第一歩を踏み出しました。
2. ライバルが手を差し伸べた「委託醸造」
自社での醸造が不可能になった水谷酒造に手を差し伸べたのが、「蓬莱泉」で知られる愛知のトップランナー・関谷醸造でした。
「蔵はなくなっても、ブランドと技術は絶やさない」。その想いに応え、関谷醸造が設備を提供し、水谷酒造のレシピや想いを汲み取って醸す**「委託醸造(OEM)」**という形でこのお酒は生まれました。
「山藍摺」の澄んだ味わいは、関谷醸造の高度な技術による支援の証でもあります。
3. 米を作るのは、水谷酒造の専務自身
スペック表にある米の生産者**「アグリサポート 立松 豊大」さん。実は彼、水谷酒造の専務取締役でもあります。
蔵が焼けてもお米は育ちます。立松専務が地元の飛島村で育てた愛知の酒米「吟香(ぎんが)」**を、関谷醸造へ運び込み、このお酒になりました。
まさに「水谷酒造の魂(米)」と「関谷醸造の技」が融合した、愛知の絆の結晶です。

まとめ:どんな料理に合う?

復興への願いが込められたこのお酒は、素材の味を大切にする料理と合わせたいところです。
* 地元の魚介を使ったお刺身
* 季節の野菜の煮浸し
* 天ぷら(塩でさっぱりと)
「サッパリスッキリ」とした味わいは、食事の邪魔をせず、明日への活力を与えてくれます。見かけた際は、ぜひその背景に想いを馳せながら、応援の気持ちで味わってみてください。

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